国道4号線(1)
出発まで
私の旅立ちの朝は、なぜか雨が多い。
1999年8月9日(月曜日)、私は雨のなか、国道4号線を北にむかって走っていた。行き先は決めていなかった。とりあえず北にむかって走り、一刻もはやく、1キロでも遠く、東京からはなれたい気分であった。
国道4号線は、日本最長の国道である。東京の日本橋から青森まで、総延長は742.2キロにのぼる。第2位は、国道9号線(京都〜下関)の644.9キロであるから、かなり引き離している 。今回は、なんとしても国道4号線を走破してやろうという、積極的な気持ちで出てきたわけではなかった。家を出て、とりあえず北に行こう、という、恣意的なものにすぎない。
この時期の私は、まとまった休みがとりにくい状況だった。少し思い切れば、長い休みを取ることは可能なのかもしれないが、そうすることにより、仕事の流れが中断することが怖かったのだ。そうして、時間の使いかたが自由にならない生活をしていると、少しのあいだでもいい、どこか遠くへ行きたい、という欲求がおさえられなくなる。で、無理をしても出かけることになる。一種の逃避ともいえる行動だろう。
逃避であることがわかっているから、明るい気分ではない。どちらかというと、うっとうしい気分のまま、家を出てきた。
しかしながら、ずっと風にふかれながら、スロットルをあけて走っているうちに、頭のなかが白くなってくる。そして、現在おかれている状況が、だんだんどうでもいいような気分になってくる。そういったところが、オートバイをつかった旅のいいところだと、私は思う。
行き先はきめていなかった。が、国道4号線をずっと走っていけば、必然的に東北地方のどこか、ということになる。東北地方には、なかなか行く機会がない。私はすべての都道府県に行ったことがあるが、最後に行ったのは秋田県だった。それ以前に、北海道に4回、沖縄県に2回、行っている。いまは、新幹線が秋田まで通じているので、東京から4時間あまりで行ける。が、依然として、気分的にはすごく遠いところだ。
私にとって東北地方は、田んぼ、きれいな川、茅葺き屋根、ローカル線というイメージだ。偏見かもしれないが...。今回は、仕事の都合で4日しか休めない。が、どこかでそんな風景に出会えば、気分もかわるだろう。漠然とではあるが、そんな期待があった。
国道4号線 (白地図著作権:「白い地図工房」)