国道40号線  −その2−

 大洗フェリーターミナルに入ると、フェリー運行会社の窓口に行ってみた。9月に入ったから、余裕だろうと思って、とくに予約はしてこなかった。次に出る船は、「さんふらわーみと」。商船三井フェリーの持ち船である。私は、「商船三井フェリー」と書かれた窓口に行った。

私      「こんにちは。次の苫小牧行きのフェリーに乗りたいのですが。」
窓口担当者「オートバイですね。いやあ、厳しいかと思われますね。」
私      「は? そんなに混んでいるのですか。」
窓口担当者「ええ。」
私      「待っていても無駄ですか?」
窓口担当者「いまの段階では、なんとも言えませんねえ。」
私      「はあ。」
窓口担当者「とりあえず乗船名簿に記入して、キャンセル待ちということで、お待ちください。」

 待ちに待った北海道行きに、思わぬ障害が出現してしまった。9月に北海道に行くヒマ人が、これほどたくさんいるとは思わなかった。
 ここでフェリーに乗らず、このまま八戸か青森まで走って、そこから出るフェリーに乗った方がいいかもしれない。けれども、サービス業の基本として、乗れる可能性がないのに、客を待たせたりはしないだろう。そんなふうに、楽天的に考え、私はキャンセル待ちをしてみることにした。
 念のため、私は隣の「東日本フェリー」と書かれた窓口に行った。大洗からのフェリーは、この2社による共同運行なのである。

私      「すみません。オートバイなのですが、キャンセル待ちをさせていただきたいのですが。」
窓口担当者「あ、はい。えー、乗れますよ。」
私      「は? ああ、そうですか。では、片道でお願いします。」

 ということで、あっさりと乗れてしまった。

 商船三井フェリーと東日本フェリーの共同運行ということは、おたがいの船のスペースを分け合って販売しているものとみられる。たまたま、東日本フェリーの方に、スペースが余っていたのだろう。
 あるいは、商船三井フェリーは東京の会社だから、関東の客の予約が集中するのに対して、東日本フェリーは北海道の会社だから、大洗発の便には余裕があった、ということなのかもしれない。
 いずれにしても、大洗でキャンセル待ちをするなら、商船三井フェリーと東日本フェリーの両方の窓口に、申し出るべきである。
 結果的には、私の予想したとおり、船はガラガラの状態で、オートバイの積載スペースにも、かなり余裕はあった。

リンク
商船三井フェリー
東日本フェリー


 午後10時30分ごろ、乗船開始となった。私は、乗船と同時に浴室に行き、汗を流してから着替えて二等寝台に入り、横になった。
 出航は午後11時59分である。多くの人は、出航を待たずに、そのまま眠りについただろう。しかしながら、私は船に乗ると、出航するところを見ないと、気が済まない性質(たち)である。午後11時50分ごろ、甲板に出ていった。
 それに、気になることがあった。私の乗る「さんふらわーみと」は、前にスペースがない、どんづまりのところに停泊していた。だから、どうやって出るのか、興味があったのだ。

 船に興味がない人にとっては、どうでもいいことだろうが、最近の船は離着岸がやりやすいように、船首(バウ)に横移動ができるようなプロペラが付いている。「バウ・スラスター」という。しかしながら、バウ・スラスターを使っても、船は斜め前方に進むから、どんづまりのところでは、発進できない。
 タグボート(艀=はしけ)を使って、うしろに引っ張り出すのかな、と思っていたら、この船は後ろにもスラスターが付いていたのだった。そして、両方のスラスターを回転させて、約10メートルほど岸壁に平行に移動し、そのまま微速後進で出ていった。1万トン以上もある船のわりには、驚くほどの機動性である。
 どうやって出るのかがわかったので、私はすっかり満足して二等寝台に戻り、そのまま、ぐっすりと眠った。

 目が覚めると、船は三陸海岸沖を航行していた。あいにく、曇り空である。船旅は、やはり青い海を見ながらの方が、気分がいい。
 ラウンジで、ずっと灰色の海を見ていたが、やることがないので、寝台に戻った。JRの場合は、朝になると、車掌が寝台をかたづけに来る。要するに「起きろよ。」ということなのだが、この船の場合は、ずっと寝台を使わせてくれるばかりか、照明も暗いままだ。「用がないやつは、寝てろよ。」といわんばかりで、まことに快適である。
 「さんふらわーみと」は、11,782トンもある船だし、動揺防止のフィンスタビライザーが付いているから、少しくらい海が荒れても、ほとんど揺れることはないと思う。が、今日は、南の海上に台風がある影響で、海上にうねりが出ている。さすがに少し揺れが出ているから、船酔いにならないためには、寝ていた方が良さそうだ。
 ということで、私は航海のあいだじゅう、ずっと、うとうとと寝ていた。おかげで日頃の睡眠不足が、十分解消できた。
 船は定刻より少し遅れて、午後8時に、苫小牧フェリーターミナルに着いた。


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