国道425号線  −その6−

 白谷トンネルを出てから、約20分で寺垣内集落に着く。久々に人家を見た。
 お店で菓子パンを買って食べる。あらためて見ると、わりと大きな集落であることに気づいた。周囲は高い山に囲まれ、なぜこんなところに集落があるのか、不思議な感じがするほどである。
 と、原付に乗った駐在さんが来た。私を見ると止まり、いきなり話しかけてくる。


下北山村にて

 駐在さん「どちらから、来ましたか。」
 私    「...。」

 失礼きわまりないが、むこうも職務だから、仕方がない。だいたい、おまわりさんはツーリングしているオートバイ乗りが嫌いだ。私は、所持品検査と称して、すべてのバッグを開けさせられたこともある。オートバイ乗りというと、みんな覚せい剤でも持っているように見えるのだろうか。職務質問だけですめば、まだよいほうである。

 私   「東京からです。べつに悪いことをして逃げてきたわけじゃないですから、ご安心ください。」

 くだらない冗談を言ってしまって、かえって逆効果であった。

 駐在さん「ほう、東京からね。ご旅行ですか。」
 私    「ええ。そうです。」
 駐在さん「どちらの方から来られましたか。」
 私    「十津川村からですが。」
 駐在さん「おや、閉鎖されてませんでしたか。」
 私    「え?」

 そういえば、寺垣内集落の手前にゲートがあり、半分閉まっていて、通行止めと書いてあった。半分が開いていたのは、山から下りてくるクルマが閉じ込められないようにする配慮だったのだ。

 私   「そういえば、ゲートが半分閉まってましたね。でも、十津川村がわのゲートは開いてたようですけど。」
 駐在さん「とにかく閉鎖です。」
 私   「それじゃあ、尾鷲までは抜けられないんですか。」
 駐在さん「尾鷲でしたら、国道42号線ですね。」
 私   「いや、池原ダムとか坂本ダムを通って行きたいなと思っていたんですが。」
 駐在さん「やめときなさい。」

 幽霊でも出るぞ、というような言い方であった。まだ閉鎖されていないのなら俺の勝手だろう、とも思ったが、危険な道なのかもしれない。ここは素直に従った方がよさそうだ。

 私   「わかりました。じゃあ、42号線におります。」
 駐在さん「じゃあ、少し戻ったところに、県道への分岐点がありますから。」
 私   「池原まで行って、309号を下りるのではないのですか。」
 駐在さん「池原までは道が狭いし、山越えになります。」

 地図でみると、たしかにそうだった。ここでは県道の方が近道であり、国道よりも道路状況はよいのであろう。

 私   「わかりました。じゃあ、県道でおります。」

 私がそう言うと、駐在さんは黙って頷いた。そして、笑わない目で、「どうか気をつけて。」と言った。


 誤解をまねかないようにつけ加えるが、警察官というのは仕事を離れると、概していい人が多い。だが、仕事中は、どうしても高圧的になる。そりゃそうだ。市民になめられていては、治安維持などできるわけがない。そういった意味では、感じのいいお巡りさんなど、いるわけがないのだ。警察官というのは、嫌われてナンボの仕事なのである。
 結局、国道42号線に出て、その日は尾鷲市内の実家に泊まった。ということで、国道425号線の寺垣内から尾鷲までは、走行していない。実家の近くでもあるから、また再来することもあるだろう。

 東京に戻ってしばらくして、国道425号線の下北山村区間が土砂崩れのため不通になっている、という記事を読んだ。私が通った日に崩れたのではなかったが、大雨が続き、崩れやすい状態になっていたのだろう。あの警察官は、本当に親切で言ってくれたのであった。

(おわり)

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