国道425号線  −その3−

 大塔橋を渡ると、T字路であった。一本道のつもりであったので、「あれ?」と思うが、「新宮方面」という案内標識にしたがって右折する。トンネルが連続している。この区間、7年前にも通っている。もう少し狭い道であったように記憶しているのだが、現在は快適な道だ。大幅な付け替えが行われたのであろう。大塔村の役場の前を通過する。驚くほど快適な道になっていた。

 日本一大きな村の十津川村(とつかわむら)に入る。面積は672.3平方キロメートル。といってもピンとこないだろうが、奈良県全体の5分の1を占めているといえば、少しは驚いていただけるだろうか。それだけ大きなところに、5,000人あまりしか住んでいない。
 「谷瀬(たにせ)のつり橋」を訪れる。長さ297.7メートルと、日本一長いつり橋である。高さは54メートルだ。「一度に20人以上、わたらないでください。」という注意書きを見て、ちょっとビビる。「えっ、そんなに弱いもんなの?」とか、思ってしまうではないか。実際には、橋を吊っているワイヤーロープは太く、スキー場のリフトなんかより、ずっと強そうだ。
 高さ54メートルというと、大した高さではない。世界最大の吊り橋である明石大橋の主塔の高さは、293.3メートル、海上から橋桁までの高さは約100メートルだ。明石大橋を建設しているとき、ピアの頂上付近で、ネットを張ったような狭い足場しかないところで働いている人たちを見た。そんな人たちのことを考えれば、しっかりとした渡り板が付けられ、落ちる人がいないようネットまで張ってある橋だ。なんてことはないだろう。

 橋の真ん中まで来て、足がすくんだ。ひざから下に力が入らなくなる。忘れていた。私は高所恐怖症なのであった。この橋、歩く部分にしか板がわたしていないので、直下がまる見えなのだ。
 おまけに風が強く、橋がゆれる。怖くて進めない。しかし進まないと、「どうしたのか。」と思われてしまう。橋のたもとに係員がいたから、心配して来てしまうかもしれない。で、手を引かれながら帰る、なんて情けないことだけは、勘弁してほしいものである。
 なるべく前だけを見るようにして、なんとか渡り終えた。「ふー」と、一息つく。渡った向こう岸は、何もないところであった。どこに人が住んでいるのだろうと思った。
 さてと。戻ることにしよう。しかし、戻るにはもう一度、橋をわたらなければならない。

「引き返せばよかったな...。」
 本当に、そう思った。さきほどは、早く渡り終えてしまうことしか、頭になかったのだ。恐怖感と、みえをはる気持ちで、判断力が幼児なみに低下したのだろう。
「ま、一度渡ったのだから、帰りは少しは馴れて平気になるだろう。」
楽天的に考えて、もう一度、渡り始めた。

 さっきと同じ場所で、また動けなくなった。風が強く、橋がゆれるゆれる。風速は20メートルを超えているだろう。ゆれの振幅も大きい。1メートルくらい、かるくゆれている。エレベータの動き始めの感じが、連続してくる感じだ。
 むこうから人が来る。まるまると太った地元のおばさんだ。平然と歩いてくる。私はその場で立ち止まって、おばさんをやりすごすことにした。
 また、前だけを見て渡ることにする。たっぷり2分間、恐怖感を味わった。再びゆれない地面を踏んだ時には、生きている喜びを実感した。私が渡り終えたとたん、「強風のため...(なんたらかんたら)」という表示が出された。


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