国道292号線  −その2−


 富岡市の手前で、深夜営業のガソリンスタンドがあったので給油する。このスタンドはセルフ方式であった。
 私は、セルフ方式のスタンドを、よく利用する。ガソリン代が1円から2円くらい安いからである。オートバイの場合、クルマと違って、窓を拭いてくれるわけでもなく、灰皿の吸殻を掃除してくれるわけでもなく、車内のゴミを捨ててくれるわけでもない。そういった過剰なサービスが期待できないぶん、たとえ1円でも2円でも、ガソリン代が安い方がいい。
 けれども、セルフ方式のスタンドは、料金の精算方法がまちまちなのが、ちょっと困る。ここの精算方法は、給油が終わると機械からレシートが出され、そこにプリントアウトされたバーコードを、事務所のなかにある精算機に読み取らせると、お釣りが出てくるという方式であった。私の家の近くで見かけないだけなのかもしれないが、奇想天外という感じである。事前にその方法を知っていない人は、まず利用できないと思う。

 アメリカのガソリンスタンドは、ほとんどがセルフ方式である。その利用方法はというと、まずオフィス(普通はコンビニなどの店舗と兼ねている)に入っていき、ポンプ番号を告げて、20ドルくらい渡す。そして給油したあと、もう一度オフィスに立ち寄ってお釣りを受け取る、という感じのところが多かった。要するに、店のレジでは販売した油種と、その量しかわからないのである。あとは人がカバーしていたが、それでなんの問題もなかった。
 お釣りを受け取るとき、店の人が「どこから来たんだ。」とか、「ほう、日本人か。」とか、「今日はどこまで行くんだ。」とか、いろいろと話しかけてきた。フリーウェイを走っていると人と話すことが少なくなるから、そういった会話は、わりと強く印象に残っている。見知らぬ人同士が話すとき、最後は必ず、「Have a nice day!」「You too!」というあいさつで別れるのだということも、そのとき初めて知った。
 まあとにかく、セルフ給油くらい、システムに頼らないで人間同士のコミュニケーションでやればいいのに、と思う。

 国道254号線の新道である富岡バイパスに入る。最近、群馬県を中心に急拡大しているカインズホームという、大きなショッピングセンターがあった。一宮という交差点で右折して、松井田から国道18号線に入る。碓井(うすい)バイパスを登っていく。有料のつもりで、あらかじめ50円をタンクバッグのポケットに用意していたのだが、料金所は撤去されていた。つまり無料開放である。
 帰ってから調べてみると、碓井バイパスは、2001年11月11日に無料化になっていたのであった。もう2年も経過している。小諸や上田方面に行くときには、私は内山峠を越えていくか、上信越自動車道を走っていくことが多い。碓井バイパスを通るのは、ずいぶんと久しぶりであったので、無料となっていたのを知らなかったのである。たった50円ではあるが、トクをした気分になる。

 中軽井沢で国道18号線を右折し、国道146号線を草津にむかって走る。途中、浅間峠という小さな峠を越える。そこまではなだらかな登り。そこから先は、だらだらとした下りとなっている。
 軽井沢から草津までは、かつて草軽電鉄という鉄道が通じていた。50キロメートルあまりの距離を、3時間以上もかけて走る超鈍足電車であったが、当時は、このあたりの主要交通機関であった。草軽電鉄は、国鉄吾妻線の開通などの状況変化があって、1962年に廃止された。
 私は1956年生まれだから、私が6才のときまで、草軽電鉄はあったわけだ。が、乗ったことはない。軽井沢というと、当時から高級避暑地であった。天皇陛下と美智子皇后殿下が出会ったのも、軽井沢のテニスコートである。私たち家族にとっては、まったく縁のないところであった。

リンク
草軽交通株式会社 (草軽鉄道をその前身とするバス会社。東急グループの会社である。草軽電鉄の紹介あり。)

 軽井沢から草津までは、走っているのは、私一人であったので、快調に飛ばした。所要時間は約30分くらい。草軽電鉄が3時間以上もかけて走った道のりを、現代のオートバイは、そんな時間で駆け抜けてしまうのである。便利になったものである。もちろん、小さな客車で、ごとごとと揺られながら旅をするのも、また格別であるだろうけど。
 草津を過ぎたところで、空が明るくなってきた。時刻は午前4時30分をすぎたところである。10月とはいえ、そんな時間に夜は明けるのである。
 ところどころに、気温を表示する電光掲示板があった。現在の気温は3℃である。氷点下になったら、路面は凍結する。凍結したら、車重の軽いオートバイは、タイヤと路面とのあいだで十分な摩擦を得ることができず、簡単にスリップしてしまう。寒い時期のツーリングでは、気温について、特に注意しなければならない。

 草津からは本格的な登りになる。標高1500メートルを過ぎたあたりで、エンジンの吹けが悪くなってしまった。いったん停まって、スロットルアジャスティングスクリューをまわし、エンジンの回転が1500回転/分以下に落ちないように調整する。
 硫化水素ガスが、さかんに噴出しているところがある。「駐停車厳禁」という標識が、しつこいほど立っている。そんなこと言われなくても、強烈な臭いで、オートバイだと停まるどころではない。
 森林限界を越えた。木々がなくなり、クマザサに覆われたなだらかな斜面が続く。
 すでに、標高2000メートルを超えている。寒い。標高1200メートルの草津で3℃だったから、現在の気温はマイナス3℃くらいだろう。路面が凍っていないかどうかに注意して、慎重に登っていく。さらに曲がりくねった道を登りきり、渋峠(しぶとうげ)に着いた。じつは、ここが今回の目的地なのであった。午前1時という深夜に自宅を出てきたのは、ここに、夜明け前に到着したいからであったのだ。


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