国道197号線 Part1   −その4−


 佐賀関港からは、国道九四(きゅうし)フェリーで、四国に渡る。国道197号線は、佐賀関から三崎までの区間は、このフェリーしか通行手段がない。つまり、海を渡っているのである。

 国道フェリーという名前のついた航路は、いくつか存在する。この国道九四フェリー(佐賀関〜三崎間)のほか、宇高(うたか)国道フェリー(宇野〜高松間)などである。
 船が好きで、なおかつ、国道の旅をしている私にとって、国道フェリーというのは、気になる存在である。だから、今回の旅において、この国道九四フェリーに乗るのは、楽しみのひとつであった。もうひとつの宇高国道フェリーには、この旅の最後、本州に渡るときに使おうと思っている。
 国道フェリーは、国道という名前がついてはいるものの、国が管理しているわけでもなんでもない。運行しているのは、国道九四フェリー鰍ニいう民間事業者である。なのに、どうして国道と名乗れるのか。
 よくわからない。けれど、もし質問してみたとしたら、「まあ、硬いこと言わないで(笑)。」という返事が返ってきそうである。

 佐賀関港からは、1時間ごとに船が出ている。しかも、出港時刻が午前7時から午後11時まで、すべて00分ちょうど。12時(正午)ちょうど発の便だけは抜けていた。従業員が、お昼ごはんを食べるのかもしれない。
 運賃は、大人610円とオートバイが910円。合計1520円。31.0キロメートル、70分という距離および時間の割には、安いと思う。就航しているのは、「ニュー豊予、ニュー豊予2、ニュー豊予3」という船で、全部699トンだ。中途半端な数字なのは、たぶん、700トンを超えると、税金が高くなるからだろうと思う。

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国道九四フェリー


 乗船券を買うと、白い紙片をパチンとホチキスでとめてから、私に渡す。みると、わざわざ「自動二輪でご乗船のお客様へ」とされたうえで、

「船内では、事故防止の為ロープ等で自動二輪車を転ばないように固定します。その旨、ご了承の上ご乗船下さい。ご乗船後、一切の異議は申し受けいたしません。尚、ご不明な点がございましたら、乗船前に係員にお尋ねください。」

と書いてある。

 まず、日本語が変だ、と思った。どこが変かというと、「自動二輪車を転ばないように固定します」というところが変だ。転ぶというのは自動詞である。だから、これだと自動二輪車が勝手に、なにかにつまずいて転ぶような感じになってしまう。
 それに、この文には主語がない。係員が、あるいは作業員がといった主語が、省略されているのだろう。正しくは、「係員が自動二輪車を倒れないように固定します」くらいであろうか。
 まあ、細かいことはともかく、全体的に、かなり高飛車な文面である。

 フェリーに乗ったら、ふつう、オートバイはロープやタイダウン(平べったい紐のようなもの)で固定される。だから、ロープで固定されることは、納得である。というよりも、固定してくれないようだと困る。なのに、なんでわざわざ、こんな紙がついているのだろう。
 なにか、よっぽどマニアックな縛り方でもされるのかな、と思いながら乗船すると、ふつうにタイダウンで固定されただけであった。


佐賀関港にて


 オートバイが、しっかりと固定されたのを確認してから、私はヘルメットだけ持って、船室に行った。カーペットが敷いてある部屋に行って、ごろんと横になる。私ひとりである。こいつはいい。これから70分間、昼寝をしながら行こう。
 目をつぶって横になっていると、小学生の団体が乗ってきた。わいわい、がやがやと騒がしい。私は、「やれやれ。」と思ったが、子供が騒がしいのは普通のことだから仕方がないし、文句を言うつもりはない。なおも横になって、うとうとしていると、「すみませんが。」という声が聞こえた。目をあけると、大手旅行会社の名札をつけた男が、「修学旅行の団体が乗っていますので、移動していただけませんか。」などと、笑わない目で言う。

 見渡すと、いつのまにか、私のまわりに女子のグループが集まっている。そこに、中年男性のオートバイ乗り(つまり私)が一人、混じっているものだから、なるほど、かなり浮いている。学校関係者の誰かが、私が女子小学生に対して、いやらしい行為でもしないかと心配したか、あるいは、この添乗員の男が、顧客である学校側に対して、気をつかったのだろう。
 では、先客である私には、気をつかわなくていいのかというと、そんなことはないはずだ。が、そんなことを気にしていたら、旅行会社の添乗員など務まらない。彼が考えるべきであるのは、私の都合よりも、まずは顧客である学校関係者の都合である。
 少々、かちんときたのだが、その男が勤めている旅行会社には、私の大学時代の友人も勤めている。もう、だいぶ偉くなっているようだが、若い頃には、やはり修学旅行で添乗員をやらされたりして、さんざん苦労している。そういうことを知っているから、まあ、仕方あるまいと思って、ヘルメットを持って立ち上がった。

  「で、どこに移動すればいいかな。」
添乗員   「あちらの方にでも。」


と言われて、座席の船室に行ってみたのだが、すでに満席で座るところはなかった。やれやれ。

 仕方がないので、甲板にあるベンチにすわった。ちょうど、船が出航するところであった。入港するときは、船首から入ったので、出港するときは回頭しなければならない。狭い港内であるが、バウ・スラスターを使って、器用に船をまわして出ていった。
 しばらく、青い海を見ていた。関アジとか関サバを獲っている漁船はいないか、と探したが、いなかった。朝早く操業して、午後は寝ているのかもしれない。
 甲板を歩く。海を見ているおじさんがいた。スーツにスニーカーという格好である。小学校の先生に、間違いない。私を見ると、会釈をする。さきほどの件があるので、少しは、私に対してすまないという気持ちがあったのかもしれない。なんとなく、世間話などする。

  「九州まで、修学旅行だったのですか。」
先生   「はい。どうもすみませんね。騒がしくしてしまって。」
私    「いえいえ、そんな。全然、平気です。四国の小学校では、だいたい、九州に修学旅行に行くのですか。」
先生   「そうですね。九州が多いです。」
私    「どのあたりをまわって来られたのですか。」
先生   「そうですね。阿蘇山とか、やまなみハイウェイとか。あと、別府のサファリパークなんかですね。」
私    「サファリパーク? あんなところが、いまや観光名所なんですか?」
先生   「はい。自分の手で、エサをやったりできるものですから。子供たちにとっては、ライオンにエサをやるなんてのは、なかなか体験できないことなんですよ。」

 
 なるほど。
 私は、動物園が好きだ。私の子供たちが大きくなったいまでも、たまに一人で多摩動物園とか上野動物園に行く。動物を見ていると、本当にほっとするからだ。そんな私であるが、動物たちを完全に見せものにしているサファリパークという運営形態は、あまり好きではない。とりわけ、客がバスのなかからエサを与えることができるなんてのは、最低だと思っている。
 けれども、動物が身近なものでなくなった子供たちにとっては、そういうのは、とてもスリリングな体験なのだろう。ということで、四国の小学生にとっては、別府のサファリパークは、いまや修学旅行における人気スポットとなっているようだ。

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九州自然動物公園アフリカンサファリ



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