国道158/156号線  −その1−

 「原風景」という言葉がある。
 それは、人の思想形成に大きな影響を及ぼす、幼少時の体験を思い起こさせる風景のことである。当然のことながら、人によって異なるだろう。育った環境は、人それぞれだからだ。
 私は三重県尾鷲市という、風光明媚なところで生まれた。だから、青い海と緑の山が、私にとっての原風景かというと、実はそうでもない。それは夏休みの思い出の風景でしかない。
 ものごころついた時には、東京の住宅地に住んでいた。近くには巨大な団地と、原っぱとよばれる空き地があり、そこで缶けりや野球をして遊んだ。だから、私にとっての原風景は、そういう感じのところである。

 しかしながら、いろんなところに旅をしていると、ふと懐かしく感じる風景というものがある。それは、緑の濃い山に囲まれた小さな町で、澄みきった水のきれいな川が流れていて、子供たちがそこで遊んでいて...、といった感じのところである。
 なぜかはわからない。おそらく、そういう感じのところが、多くの日本人にとっての原風景であるという情報が、あとで擦り込まれたのだろう。あるいは、私のなかにある日本人としてのDNAに、最初から擦り込まれていたのかもしれない。
 では、いま日本に、そういうところがどれだけ残っているのだろうか。実はありそうでないのである。でも、探せばまだある。

 2000年8月29日、松本から国道158号線を登っていく。今回は3日しか休めない。今日は火曜日だから、木曜日じゅうには帰って来なければならない。
 このあたり、安曇野(あずみの)といわれる田園地帯だ。雄大な北アルプスを展望し、雪解け水や湧水がきわめて豊富であり、また梓川をはじめ、いくつもの清流が流れ出ている。素朴な風情の、道祖神も点在している。安曇野に5月か6月に訪れると、山々の頂には深い雪が残り、まるでアルプス地方の風景のようだ。

 国道158号線は、松本電鉄と並行して走る。山が好きな人には、おなじみの鉄道だろう。むかし京王電鉄を走っていた、古い電車が走っている。終点の新島々(しんしましま)には、大きなバスターミナルがあり、日本有数の高原リゾート地である上高地に行く人でにぎわっている。



国道158/156号線  (白地図著作権:「白い地図工房」


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