国道292号線  −その1−


 旅に出るためには、理由が必要である。
 理由がなくて、いろいろなところに行くのは単なる放浪であり、旅とはいえないだろう。旅に出る理由とは、その旅の「テーマ」といいかえてもいい。

 私の場合、これまで旅に出るには、それなりの理由はあった。しかしながら、その多くは他人にとっては、理解しがたいものであると思う。これまでの旅行記を読み返してみても、

−子供の頃、地図で見ていたから。 (国道265号線)
−「山口錦帯橋のサクラは、いま、まさに見ごろです!」と、ローカルTV局の女子アナウンサーが言ったから (国道2号線Part2)
−ウミガメの産卵が見たかったから (国道55号線)

などといったようなものである。しかしながら、それらは私にとっては、旅に出るための立派な理由なのである。
 有名な観光地や温泉をめぐり、美味しいものを食べることだけが、旅に出る理由かというと、そうでもないだろう。それは旅行であって、旅ではない。
 旅に出る理由とは、人それぞれであっていいと思う。それは多くの場合、個人的なものであり、他人が口をはさむのは、大きなお世話というものであろう。

 私は、写真を撮るのが好きである。スナップ、人物、花、鳥、昆虫、風景など、ジャンルは問わない。なんでも撮る。写真を撮るのが好きな私にとって、毎年、紅葉の時期と桜の時期は、落ち着かなくなる。紅葉と桜は、日本の風景を最高に引き立ててくれるからだ。
 今回、私が旅に出た理由は、1枚の写真に魅せられたから、である。それは「芳ヶ平」という、群馬県にある標高2000メートル近辺にひろがる湿原の、秋の風景を写したものであった。


 2003年10月3日金曜日、午前1時。私は、国道254号線(川越街道)を北に走っていた。こんな深夜に出かけていくのには、理由がある。まあ、それは現地に着いてから説明することにする。
 深夜の国道254号線は、有名な“ぶっとび街道”であり、みんな時速80キロメートル以上のスピードで走っている。川越を過ぎてから、東松山市、小川町、藤岡のあたりまで、ずっとそうだ。
 深夜にオートバイで走るのは危険だ、という意見もある。たしかに、オートバイは前後の投影面積が小さいから、右折車には見落とされやすいし、後続車には追突されやすい。
 けれども、それは昼間でも同じことだ。深夜に走っているのは、ほとんどが長距離の大型トラックであり、彼らは運転に関してはプロである。走っているオートバイを見落として、ぶつけてくるような、初歩的なミスなどしないだろう。
 深夜には、ノルマに追われてイライラしている4ナンバーのライトバンはいない。携帯電話をかけながら運転する、女性の軽自動車もいない。だから深夜の国道は、昼間よりも安全なのではないかと、私は思っている。

 ただし、夜10時から12時ごろまでに多い、酔っ払い運転のクルマには、十分、注意しなければならない。酒に酔っていると、反応が遅れるだけでなく、冷静な判断が出来なくなり、人を轢いても逃げてしまうから困る。
 何年か前、東京都町田市で、ワンボックスカーに乗った男性が飲酒運転をしたうえ、スクーターに乗った女性をはねて即死させ、逃走するという事件があった。その運転者は、追跡してきた人に現場に戻るように説得されたが、結局、逃げてしまった。その様子を、たまたま取材していたTVのスタッフが撮影し、生々しく放映されたのである。私は、たまたまその番組を見ていた。ショッキングであった。
 その後、ひき逃げ犯はつかまったが、現場から逃げたことにより、飲酒運転を立証することはできなかった。まさに逃げ得である。さらに、損害保険会社は、運転者に過失はないとの判断を示し、スクーターに乗った女性に対して賠償金は支払われなかったという。日本の損害保険会社のオートバイに対する偏見は、相当なものである。
 ということで、夜の運転では、酔っ払い運転のクルマにだけは、注意しなければならない。

 酔っ払い運転のクルマは、注意してみていれば、すぐにわかる。酒に酔っていても、まっすぐに走ることができる人は多いけれど、スピード感覚には一発で影響が出る。だから、車間距離がつまったりひろがったりして、不安定になるのだ。
 私はこういうクルマが近くに寄って来たら、安全なところで停まって、やりすごすことにしている。酔っ払い運転で、長距離を走る人はいない。すぐそこまでだから、捕まることもあるまい、と思うからこそ、酒に酔ったまま、ハンドルを握るのである。2分くらい間を置いて走れば、もう、どこかを曲がってしまって、見かけることはない。
 幸い、この日は、酔っ払い運転のクルマを見かけることもなく、私は、大型トラックに混じって、順調にぶっとばして行った。川越から藤岡まで、1時間もかからなかった。

注)こういった交通事故の実態については、週刊朝日に連載ページを持っておられた柳原三佳氏のホームページが参考になると思われる。柳原氏自身も、大型のオートバイに乗っておられる方で、ライダーの視点から交通事故を取材していらっしゃるから、非常に参考になる。


リンク
交通事故をテーマに取材活動をしている柳原三佳氏のページ




国道292号線  (白地図著作権:「白い地図工房」


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