国道265号線 その1
出発まで
1993年4月27日、私は、川崎発九州行きのフェリーに乗っていた。この船の車両甲板の片隅には、私の愛車である250CCのオートバイが積まれている。
今回の旅の目的は、国道265号線という、九州の山の中を縦断する狭い国道を走ることである。私は、ただそれだけの目的のために、東京から九州まで行こうとしているのだ。
国道265号線は、宮崎県の小林市を起点とし、熊本県阿蘇郡一ノ宮町まで続く路線だ。途中の経由地として、児湯郡西米良(にしめら)村、同県東臼杵郡椎葉(しいば)村、熊本県阿蘇郡蘇陽(そよう)町、同郡高森町、同郡一宮町が指定されている。全長は、209.1qに達する路線である。
東海道でいえば、東京を出発して静岡を過ぎ、大井川をはさんだ島田、金谷のあたりまで、ずっと山道が続いている感じである。今回、私は、その起点から終点まで、一気に走ってしまおう、と考えている。
30才をとうに越えた男にしては、ばかなことをしているという自覚はある。だから、今回の旅の本当の目的は、家族にも話していない。
船は、定刻よりも2時間遅れて、日向フェリーターミナルに接岸した。その日は、国道10号線を南下して、宮崎のビジネスホテルに泊まった。
国道265号線 (白地図著作権:「白い地図工房」)