国道197号線 Part2   −その1−


 2004年5月22日、佐田岬の駐車場でキャンプをした私は、朝、4時ごろ、クルマのエンジンの音で目覚めた。テントからはいでる。クルマの運転者に「おはようございます。」と挨拶をすると、ちらっと私を見て、無言のまま、会釈を返してきた。

 こんなに朝はやくから、なにをするのだろうと思って見ていたら、やはり釣りであった。大きなクーラーボックスとロッド、ネットなどを抱え、磯に降りていく。「どうか気をつけて。」と言うと、かるく目で頷いて、無言のまま出発して行った。磯釣りをする人には、無口な人が多いのかもしれない。

 テントをたたんで、出発する。昨日来た、岬までの細い道を戻って、三崎港までたどり着く。フェリー乗り場のトイレで、顔を洗って歯をみがく。そうしていると、ごま塩頭のおっさんに声をかけられた。

おっさん    「えっと(=ずいぶん)遠くから来られたんじゃな。」
私      「あ、はい。東京の立川というところからです。」
おっさん   「高速道路を使って来られたんじゃね。」
私      「いえ、横須賀から大分までフェリーで来て、それからここまで渡ってきました。」
おっさん   「日本一周でも、しよるのかね。」
私      「いいえ。今回は四国だけです。」
おっさん   「学生さんかい。」
私      「いいえ。もう47才なんですよ(笑)。」


 私が47才と聞くと、おっさんは、さすがにびっくりしていた。なんと、私と同い年であったのだった。
 学生か、と聞かれるのは、これが初めてではない。私は、実際の年齢よりも少し若く見えるけれど、では20代に見えるかというと、そんなことはない。だから、これは、オートバイに乗って、遠くまで旅をしているような人は学生である、という固定観念が、そう言わせるのだろう。

 三崎港のフェリー乗り場には、「国道197号線の197q地点」と書いた看板が立っていた。国道番号と起点からの距離が一致しているというのは、単なる偶然だけれども、おもしろいと思う。


国道197号線の197キロメートル地点という看板




 ところで、ガソリンを入れたい。港の正面に、ガソリンスタンドがあるのだが、もう開店しているのだろうか。店のなかをのぞいてみると、おじさんが新聞を読んでいる。

私          「すみません。もう開いているのですか。」
GSのおじさん   「ああ、あいちょるよ。」
私         「そうですか。それでは、レギュラーガスを満タンに。お願いします。」
GSのおじさん   「はい。いま行くけんね。」


 おじさんが給油していると、おばさんが来た。そして、ガソリンの代金をおばさんに渡して、取引が完了した。すると、おばさんに呼びとめられた。

GSのおばさん    「タンゴール、持っていかんかな。」
私         「はい。ええと、なんでしょうか。」
GSのおばさん   「タンゴール。このあたりの特産品じゃけん。」


 そう言って、おばさんはチラシを見せてくれた。どうやら、みかんの一種のようだ。けれど、そんなに安くはない。1個200円くらいする。私は、少し考えてしまった。

GSのおばさん    「“ハネ”やから、見てくれは悪いけど、味はいっしょやから。」
私         「すみません。ハネと申しますと。」
GSのおばさん   「あ、不良。売り物にならんやつや。」
私        「え? くださるのですか。」
GSのおばさん   「荷物になるかもしれへんけど、よかったから持っていかんかな。」
私         「どうもありがとうございます。それでは、恐れ入りますが、少しいただけますか。」

おばさんは、にっこりと笑って、家の中に入って行った。しばらくすると、ビニール袋に10個くらい、タンゴールを入れて持ってきてくれた。

私         「こんなにいただいてしまって、よろしいのでしょうか?」
GSのおばさん   「もっとたくさん、持って行ってもろてもええんやけど、オートバイやから、あまり持たしても迷惑かな、思て。」
私        「どうもありがとうございます。ありがたく頂戴します。」
GSのおばさん   「せっかく遠くから来られたんやから、喜んでもらえたらと思て。喜んでもらえるのは、ええことやから。」


 私は、丁重にお礼を言って、ありがたくタンゴールをもらって、出発した。おじさんとおばさんは、店の外まで出て、私を見送ってくれた。あとでタンゴールを食べてみると、みかんとオレンジを合わせたような味で、しかもジューシーである。とても美味しかった。

リンク
清見タンゴール
三崎町ホームページ


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