国道197号線 Part1  −その3−


 大分に着くのは、夜9時すぎだ。それまで、なにもすることがない。そこで、展望風呂に行った。
 人生において、快適な時間というものはいろいろとあるし、それは、人によってもちがうと思う。けれども、船に乗って、海を見ながらお風呂に入るというのは、私にとっては、かなり上位にランクされるほうである。果てしなく続く、青い海を見ているだけで、脳からアルファ波が出てくる。30分くらい、すぐに経ってしまう。海を見ながらお風呂に入ることができる船は限られている。だから、そういう船に乗ったら、ぜひとも入られた方がいいと思う。

 私は、少しぬるめのお湯につかりながら、窓の外の海を見て、イルカを探した。この日は天気が悪いせいか、イルカがジャンプするのをみることはできなかった。かわりに、トビウオが飛ぶのを頻繁にみることができた。
 しゃとるよこすかは、定刻どおり、午後9時45分に大分港に入った。その日、私は大分市内のホテルに泊まった。

注:私が乗ったことがある船で、海を見ながらお風呂に入ることができる船は、このしゃとるよこすかのほか、ばるな、さんふらわあみと(商船三井フェリー)、フェニックスエキスプレス(マリンエキスプレス)などである。が、探せばまだあると思う。



 あくる日は、朝から直入町(なおいりまち)、湯布院町(ゆふいんちょう)、安心院町(あじむまち)、別府市などを走った。四国を走るのが目的とはいえ、せっかく九州に来たのだから、ちょっとだけ、九州を走っておこうと思ったのだ。直入町には、初めて訪れた。町の中心部にある長湯温泉という炭酸の温泉は、とても珍しかった。

 大分に戻ってから、国道197号線を佐賀関に向かって走る。荷台に大きな水槽をつけた運搬車と、すれ違った。このあたりでとれる「関アジ」とか「関サバ」を運ぶクルマだ。
 魚の“ブランド化”に成功したのは、おそらく、ここが初めてだろうと思う。佐賀関町漁協が出荷する関アジ、関サバのしっぽには、一匹一匹タッグシールが取り付けられている。また、大都市にある高級な料理屋さんには、いけすで活きたまま運ばれて、刺身やタタキになる。まるで、宝石でも運ぶかのような扱いである。
 私の子供の頃は、アジとかサバは、大衆魚の代名詞であった。それが、いつのまにか、アジが高級魚になり、サバが高級魚になってしまった。そして、最後には、こういったブランド商品になってしまった。関アジとか関サバは、東京あたりのデパート地下で買うと、1匹2500円もする。時代の移り変わりを感じさせる。

 私は、三重県尾鷲市という、海が近い町に実家があり、子供のころは夏休みのたびに帰っていた。だから、魚なんて、そのへんに泳いでいるもの、という感覚が、どうも抜け切らない。高いお金を出して魚を買うのは、抵抗がある。
 そもそも、尾鷲の実家では、魚など、お金を出して買うものではないという感覚であった。実家のある集落には、魚屋さんなんかないのである。けれども、家にいると、どこからともなく人が来て、「今日、漁から戻った。」とか言って、カツオを1本置いていくし、あるいは「たくさん釣れたから。」とか言って、クエとかカサゴ(地元ではガシラと呼んでいた)を置いていくのである。そうして、夕食どきになると、食卓にたくさんの魚がのっているのであった。
 アジとかサバのような下魚(げざかな)なんて、誰も持って来なかったように思う。地元の漁師さんは、「サバなんか、釣れても、みな捨ててまう。」とか言っていた。それはともかく、いまや、関アジ、関サバの人気は、大したものである。

 佐賀関漁協のすぐ隣にお店があり、関サバ定食、関アジ定食というメニューがあった。ともに2000円。お昼ごはんとしては、ちょっと高めである。私はちょっと考えたが、東京で関アジ、関サバなど食べたら、この倍の値段はするだろうと考え、注文することにした。
 で、関アジ定食、関サバ定食の、どちらにするか。ともに刺身である。私は子供の頃、シメサバを食べて、蕁麻疹(じんましん)が出たことがある。それ以来、ずっと、自分のことをサバアレルギーだと思っていた。
 ある時、テレビ番組を見ていると、本当にサバアレルギーの人は、1万人に5〜6人程度であり、自分のことをサバアレルギーだと思っている人の大半は、古いサバを食べたことにより中毒をした経験を誤解しているのだ、と言っていた。その番組を見た私は、さっそくサバを買ってきて、味噌煮にして食べてみた。なんともなかった。自分がサバアレルギーであるというのは、やはり誤解であったのだ。以来、私はときどきサバを食べるようになった。

 自分がサバアレルギーであるという誤解は解けたものの、外食でサバを刺身で食べるというのは、さすがに抵抗がある。「サバの生き腐れ」というたとえのとおり、サバは新しいように見えても痛みが早いのだ。自分で釣ったサバとか、自分の目で確かめて買ってきたサバならともかく、刺身になってしまったら、鮮度を確かめようがない。
 けれども、天下に名高い関サバを、刺身で食べてみたいとも思う。私は、ちょっと迷ったが、思い切って関サバ定食を注文した。
 感想であるが、肉厚の身はとてもぷりぷりしていて、歯ごたえがあった。身が締まっていると表現するべきなのだろうか。味は、たしかにサバの味である。決して、上品な味とはいえないと思う。かといって、いったい誰がこの味を下品と決め付けることが出来るのだろうか、という感じもする。
 うまく表現できないが、要するに、とても美味しかった。

リンク
佐賀関町ホームページ
関アジ、関サバの紹介


つづきつづきを読む     インデックスに戻る   ホームへホームに戻る

inserted by FC2 system