国道16号線  −その1−


 近くにあり、いつでも行けると思えるところには、いつまでたっても行かない。
 私は、もう30年以上、東京に住んでいるが、いまだに東京タワーに登ったことがない。東京都庁の展望台にも、つい最近まで行ったことがなかった。仕事で芝や新宿に行くことは頻繁にあるのだが、そういった観光客が集まるようなところには、なかなか行く気には、なれないものである。

 オートバイで旅をするときも、同じである。日本全国、いろいろなところを走ってきたが、関東近辺には、意外なほど行っていない。なんとなく、遠くに行かないと、いいものに出会えないような錯覚があるのだ。実際には、関東近辺でも、いいところ、いいものはいくらでもあるのだが。
 だんだん体力が衰えてきて、日帰りで400キロメートル以上走るのは、しんどくなってきた。これからは、身近なところでいいところを再発見する旅、というものも、やっていこうと思う。

 私の家の近くにある国道というと、国道16号線がある。国道16号線は、関東4県(東京、神奈川、千葉、埼玉)を環状につないでおり、総延長は253.2キロメートルもある。東海道でいうと、東京から浜松くらいまでの距離だ。なかなかの長さである。別名、東京環状道路。けれども、東京の人でもこのような呼び方をする人は少なく、通称は「16号」で通っている。
 あまり知られていないと思うが、国道16号線の起点は横浜市西区の高島町交差点で、国道1号線と交るところである。そして、終点は起点と同じところ。すなわち、ぐるっと一周しているのだ。
 それはともかく、国道16号線の沿線であれば、私の家からはだいたい日帰り圏内だし、途中の経由地もバラエティに富んでいる。一気に全線走破というのではなく、何日かにわけて、いろいろなところに行ってみるのもいいかもしれないと考え、出かけることにした。



町田市付近

 東京の地形をおおざっぱに表現すると、多摩川を境として、北がわには武蔵野といわれる台地が、南がわには多摩丘陵といわれる低い丘陵地帯がひろがっている。武蔵野の多くは、関東ローム層といわれる赤土の台地と、雑木林がひろがっているところだ。台地なので、水田はほとんどなく、畑が多い。
 一方、多摩丘陵の多くは山林である。そして、ところどころに谷戸(やと)とよばれる、小さな谷川がつくった窪地状になった谷があり、そこでは小さな水田がつくられている。東京の西側は、だいたいそういうところであった。
 多摩丘陵は、多摩ニュータウンをはじめとする大規模な開発が、1970年代から開始された。この大規模な宅地開発は、多摩丘陵の自然に壊滅的な打撃を与えたかのように見える。ところが、実際にはそうでもなくて、網の目のようにはりめぐらされた道路網、鉄道網のあいだには、まだまだ自然が残っているところが多いのである。そういったところは「里山」と呼ばれ、近年、大都市近郊において、手軽に自然にふれ合える場所として、見直されている。

 2002年6月8日土曜日、私は国道16号線を、南に向かった。今回の行き先は、東京都町田市の北部、図師町(ずしまち)および小野路町(おのじまち)にまたがる区域で、「図師小野路歴史環境保全地域」に指定されているところだ。多摩地区における代表的な里山であり、谷戸には、小さな棚田が多く見られるところである。
 国道16号線の機能は、なんといっても都心に流入するクルマの数を減らすバイパスとしての役割が主体である。その意味では、人口の多い東京西部と神奈川県を結ぶ連絡機能は、その中枢的な機能であるといえよう。そのため、この区間はいつも混雑しているし、大型のトラックが多い。

 有料道路である八王子バイパスを通る。この道、たった3キロメートルほどのわりに、通行料金は250円と高く、しかもクルマもオートバイも同額である。口惜しいけれど、ここを迂回しようとすると、JR横浜線の踏切を渡り、住宅街のなかを走らなければならない。子供でも飛び出してきたりしたらイヤなので、私はいつも250円を払って、ここを通るようにしている。早く償還期間が終わって、無料開放になってくれないかな、と思っているのだが。
 有料道路の区間が終わると、相模原市(さがみはらし)に入る。このあたり、戦前には陸軍の施設がたくさんあった。いまでも、その跡がたくさん残っている。
 地図を見ると、まずJR横浜線の相模原駅から矢部駅にかけて、広大な面積を占める施設があるのが目につく。現在は、米軍の相模原補給廠(しょう)となっているが、戦前は陸軍の造兵廠および兵器学校があった。要するに兵器をつくっていた工場、およびその使い方を教える研修施設、というところであろう。
 小田急の相模大野駅の北側には、米軍ハウスが広がっている。ここも陸軍の通信関連施設があったところである。このほかにも、陸軍士官学校とか、陸軍病院とか、かつての陸軍の施設がたくさんあった。まさしく、軍都という感じのところであった。

 国道16号線は、まっ平らな台地を進む。このあたりは箱根や古富士などの噴火による火山灰がたい積してできた台地で、それが相模川により侵食された河岸段丘になっているのだ。国道16号線は、その3段目の上を走っている。こういったことは、国道16号線から相模川に降りていくと、途中にものすごく急な崖があるので、すぐにわかる。

 相模原市付近の地図をみる

※JR上溝駅付近をはしる崖線は、等高線が4本、集中している。つまり標高差は約40メートルにおよぶ。


リンク
相模原市公式ページ




国道16号線  (白地図著作権:「白い地図工房」


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