国道13号線(1)


竜飛岬〜秋田

 国道4号線を北上し、十和田を経由して竜飛岬に着いた私は、日本海沿いに、秋田まで出ることにした。
 すでに午後3時近い。私は、家に電話を入れた。とくにかわったことはないようだ。「明日じゅうには、家に着くだろう。」と言って、電話を切った。明後日の朝には仕事上の約束があるから、明日じゅうには家に着いていなければまずいのだが。
 さて、南へむかおう。十三湖までは来た道を引き返し、十三湖大橋をわたった。

 十三湖大橋は、せまい水路をはさんで、右は海、左は湖という地形のところをわたる。ちょうど国道1号バイパスの浜名大橋が、そうである。が、このような地形をわたる橋、ありそうでないような気がする。
 橋を渡ったところにある十三という集落は、天然の良港として、14世紀から15世紀にかけて、すごく栄えたところだ。そうことは知識として知っている。が、現在は、そんなことを想像するのが困難なほど、ひなびたところだ。
 橋をわたったところで、「しじみラーメン」と書いたのぼりがみえた。すこし心が動いたが、全部食べられそうになかったので、先に行くことにする。
 車力(しゃりき)村から、屏風山広域農道に出た。周囲は湿地帯で、大小の沼が点在している。人家はまったくなく、ちょっと不思議な風景だ。
 木造(きづくり)町の、亀が岡遺跡を通る。歴史の教科書には必ず載っている「遮光器土偶」の像が置いてあった。横にスリットが切ってあるゴーグルをした、不思議な土偶だ。宇宙人をモデルにしたのではないかといわれている。
 ふと見上げると、まさに宇宙が透けてみえるほどの青い空であった。私は10キロ以上にわたって、信号ひとつない道を、快調に飛ばした。

 国道101号線に入り、JR五能線にそって、日本海岸を走る。五所川原と能代をむすぶから、五能線だ。
 深浦というところで、3回目のガスチャージをする。私のオートバイの燃費は、1リットルあたり35キロメートル前後だ。燃料タンクは15リットル入る。計算上は、500キロメートル以上走ることができるのだが、いつも350キロメートルを超えた時点で、ガソリンを入れるようにしている。満タンにするたびに、トリップメーターをゼロにする習慣であるので、出発してから通算の距離はわからない。が、3回目のガスチャージなので、だいたい1000キロメートルちょいほど、走ったことになる。東京から青森までは、だいたい700キロメートルだ。いろいろ寄り道したから、まあ、そんなものだろう。

 ガソリンスタンドのご主人と、少し話をする。
「静かで、いいところですね。」
「いやいや、地名のとおり入江になってるから、地震でもあれば、大変よ。」
「え? 最近大きな被害、ありました?」
「奥尻島沖地震の時なんか、波があの堤防を越えてね。そんでもって、道路を越えて、うちの敷地にね。」
 そういうと、ご主人はスタンドの敷地の端まで歩いて行った。私は立ちつくしている。で、私の方を振りかえり、両手をひろげて、「ザーッ」と言いながら、走って来た。そして、私のところで立ち止まり、
「とね。ここまで波が来たんよ。」
わかりやすいが、アクションが大きい。私は、
「ほー、それはそれは。大変でしたね。」
と言うと、ご主人はにっこりと笑った。



国道13号線  (白地図著作権:「白い地図工房」

 空腹だったので、スーパーでお弁当を買って、海の見えるところで食べた。コンビニ弁当やほかほか弁当が、旅の道中における、私の主食だ。いい年齢をして、ただ走るだけ。おいしいものを食べるわけでもなく、いい宿に泊まるわけでもない。「それで、どこが楽しいの?」と聞かれても返答に困る。「走っている時間がいいのだ。時間の使いかたが、変わるのだ。」としか、答えられない。

 「要は、時間の使いかた、だな。」
 ふいに、そう考えた。旅行と旅の差は、時間の使いかたがちがうのだ。旅行とは、あらかじめ、他人あるいは自分によって、時間の使いかたが決められた行程である。それに対して、旅は、時間の使いかたが、決められていない行程なのだ。
 かつて、あてのない旅に出るたびに、新しい発見、新しいテーマがみつかったのは、時間の使いかたが、変わったからだ。知らない土地で、感性をとぎすましているからこそ、ふだん見えないものが見えてくる。
 たとえ、4日間の旅であっても、自由な時間の使いかたをすることにより、ふだん見えないものも見えてくる。空が青いことに感動するのも、稲の穂の香りが甘いことに驚きを感じるのも、時間の使いかたがかわったからだろう。
 人生において、時間は無限にあるわけではない。これからの私は、長い時間、旅に出るなどということは、とうてい不可能である。けれど、短い旅であっても、時間の使いかたを変えることにより、新しい発見、テーマが見えてくるのではないか。
 そのように考えると、現在の状況は、けっして絶望的というほどでもないかな、と思えてきた。


     
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リンク
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